10年前のガムは食べられる?賞味期限表示がない理由と劣化リスク検証

10年前のガムは食べられる?賞味期限表示がない理由と劣化リスク検証の疑問点について、専門知識を詳しくお届けします。

法的に腐敗しないと定義されているからといって、「10年放置したガムが購入時と同じように美味しく食べられるか」という問題はまったくの別次元である。長期間の放置によって生じるのは、腐敗ではなく「経年劣化(物理的・化学的変質)」だ。

チューインガムの骨格を形成しているのは、植物性天然樹脂(チクルなど)や合成樹脂(酢酸ビニル樹脂、ポリイソブチレン等)、植物油脂や軟化剤(グリセリン)を混合した「ガムベース」である。このガムベースに対して、10年という歳月は以下のような不可逆の変質をもたらす。

第1に、「可塑剤の硬化と組織の脆弱化」が起こる。製品内部にわずかに含まれていた水分や軟化剤が長い年月のうちにパッケージの隙間から徐々に蒸散し、ガムベース本来の弾力性が失われる。10年前のガムを口に含むと、本来のモチモチとした噛み心地ではなく、ガラス細工のようにパキパキと割れ、砂や粉末のように口の中でボロボロと崩壊する現象が確認されている。

第2に、「香料の揮発と油脂成分の酸化」である。ペパーミントやスペアミントの爽快感、各種フルーツフレーバーを構成する精油成分・エステル類は揮発性が高く、10年間のうちに包材を透過して抜け落ちてしまう。さらに、ガムベースに含まれる油脂分が空気中の酸素に触れ続けることで「過酸化脂質」へと変化し、古いクレヨンや劣化した油のような不快な戻り臭を発生させる。

第3に、「キシリトールや糖分の再結晶化」だ。特に昨今の主流であるキシリトールガムなどの粒ガムにおいては、表面を覆うコーティング層(糖衣)が微細な湿気の吸収と乾燥を繰り返すことで結晶構造が破壊され、ザラザラとした不快な舌触りへと変質する。

では、古いガムを噛んだ場合の人体への影響はどうなのか。製造時に混入した菌が存在せず、保管中に外部から水分やカビが侵入していない限り、致死的な食中毒菌(ボツリヌス菌やサルモネラ菌など)が劇的に増殖している可能性は極めて低い。しかし、酸化した油脂(過酸化脂質)や変質した香料化合物を摂取することで、胃の粘膜が刺激され、胸焼け、嘔吐感、一過性の下痢などの消化器系症状を引き起こすリスクは十分に存在する。

中川 明日香

中川 明日香

ビジネス戦略アナリスト

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。

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