我が子を食らうサトゥルヌスにゴヤが込めた狂気の真相

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サトゥルヌスの神話を描いた名画として、ゴヤと並び称されるのが17世紀バロック絵画の巨匠ペーテル・パウル・ルーベンスの作品です。同じテーマでありながら、両者が提示したビジュアルと世界観は驚くほど対照的です。

比較項目ルーベンス版(1636–1638年)ゴヤ版(1819–1823年)美術史的・心理的見解制作意図・用途スペイン国王フェリペ4世の狩猟館を飾る公的注文自身の別荘「聾者の家」の私的食堂壁画公の神話画と私的な内面吐露の差サトゥルヌスの描写堂々たる肉体美を持つ老神、冷徹な執行者髪を振り乱し、見開いた眼球で肉を貪る異形の老人神性の完全な剥奪と獣性の表出犠牲者の姿泣き叫び抵抗する生々しい赤子(幼児)頭部と腕を食いちぎられた青年のような肉体神話の忠実な再現か、別の寓意かの相違画面の色彩と光バロック特有のドラマチックな明暗、鮮烈な赤泥のような暗褐色と黒、鈍い血痕ゴヤ晩年の「黒い絵」特有の閉塞感

ルーベンスのサトゥルヌスは、神話に忠実に「幼子」の胸元に食らいついています。そこには劇的な緊迫感と残酷さがあるものの、構図は計算され尽くしており、鑑賞者はあくまで「古典劇の一場面」として安全圏から眺めることができます。

一方、ゴヤの作品にはそうした様式美が一切ありません。サトゥルヌスが握りしめているのは赤子ではなく、成熟した青年の体躯に見えます。神話では丸呑みにしていたはずの我が子を、ゴヤのサトゥルヌスは肉片を引きちぎるように咀嚼しています。鑑賞者は神話の物語ではなく、生身の人間が犯すカニバリズムの現場を覗き見てしまったかのような戦慄を覚えるのです。

渡辺 美咲

渡辺 美咲

ガジェット&アプライアンスライター

心身ともに健康で持続可能なライフスタイルをテーマに、最新のウェルネストレンドを発信中。

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