「道長と伊周の競射」勝敗を分けた衝撃の一言と中関白家没落の真相
「道長と伊周の競射」勝敗を分けた衝撃の一言と中関白家没落の真相にまつわる役立つ知識を分かりやすく発信ます。
『大鏡』が伝える勝負の展開は、まさにドラマチックな逆転劇でした。当初、場の空気は主催者側である伊周の優勢で進みます。伊周が放った矢が立て続けに命中し、道長に2本の差をつけて勝ちを決めました。ところが、息子の晴れ姿に気を良くした関白・道隆が「もう2本ずつ射よ」と勝負の延長を提案したことから、風向きが急変します。
ここで道長は、ただ矢を射るのではなく、自らの政治的野心と命運を懸けた強烈な「言霊(ことだま)」を投げかけました。
「道長が家より帝・后立ち給ふべきならば、この矢当たれ」
(私の家系から天皇や皇后がお立ちになる運命であるならば、この矢よ当たれ)
平安時代において、言葉に出した誓約(うけい)は神仏への誓いであり、外れれば自らの未来を呪い殺すに等しい行為です。並外れた覚悟とともに放たれた道長の矢は、見事に的の中心を射抜きました。
激しい動揺に襲われた伊周の手は震え、放った矢は的を大きく外れて見当違いの方向へ。さらに道長は冷徹に追い打ちをかけます。
「摂政・関白すべき身ならば、この矢当たれ」
(私が将来、摂政や関白になる身であるならば、この矢よ当たれ)
道長が放った矢は再び的の真ん中に突き刺さりました。完全に気圧された伊周の2射目は、的の近くにすら届かず、庭の木をかすめて虚しく落ちていきました。技術の優劣ではなく、背負っている覚悟と精神力の差が、勝敗を決定づけた瞬間でした。