なぜ袋で育てる?有袋類の生態とオーストラリア激変の歴史を徹底解剖

なぜ袋で育てる?有袋類の生態とオーストラリア激変の歴史を徹底解剖の具体的な内容に迫る! わかりやすい言葉で紐解きます。

しかし、人類の進出とともに有袋類の楽園は激変しました。その最大の悲劇の象徴が、かつてタスマニア島に生息していた肉食有袋類の頂点、フクロオオカミ(通称:サイラシン)の絶滅です。

背中にトラのような縞模様を持ち、アゴを120度近くまで大きく開くことができたフクロオオカミは、19世紀以降、入植者たちが持ち込んだ羊を襲う「害獣」として激しい駆除の対象となりました。タスマニア政府が懸賞金をかけたことも手伝い、組織的な乱獲が行われた結果、個体数は激減。1936年9月7日、ホバートのボーマリス動物園で飼育されていた最後の1頭「ベンジャミン」が寒冷な夜に放置されて息を引き取り、種としての絶滅が宣言されました。

ところが2020年代以降、この悲劇を覆そうとする衝撃的なプロジェクトが動いています。米国のバイオ企業「コロサル・バイオサイエンシズ(Colossal Biosciences)」とメルボルン大学の研究チームが主導する「フクロオオカミの脱絶滅(De-extinction)プロジェクト」です。保存されていた液浸標本や骨組織から高品質な全ゲノム配列を解読し、現生の近縁種であるオオフトオツメフクロマウスの幹細胞へCRISPR-Cas9技術を用いて遺伝子を組み込む研究が加速。生態系への再導入を巡る倫理的・環境的議論を巻き込みつつも、バイオテクノロジーの最先端アジェンダとして世界中の注目を集めています。

一方、現生の最大肉食有袋類であるタスマニアデビルもまた、絶体絶命の危機に直面してきました。1990年代半ばから猛威を振るった「デビル顔面腫瘍病(DFTD)」は、個体同士の噛み合いによって癌細胞そのものが感染・移植されるという極めて稀な伝染性悪性腫瘍です。致死率はほぼ100%に達し、野生個体群の約8割が失われる壊滅的被害をもたらしました。

しかし、保護現場からの報告は希望に満ちています。感染拡大から約30年が経過し、野生個体の一部でDFTDに対する免疫反応や遺伝子変異(腫瘍に対する抵抗性)が確認され始めたのです。さらに、オーストラリア本土の保護区フェンス内に病気のない個体を再導入して野生下での自然繁殖を促す「アーク(箱舟)プロジェクト」が功を奏し、2020年代半ば以降、本土における野生下での繁殖成功事例が相次いで報告されています。科学者たちの不屈の努力と生物自身の急速な適応進化が、種を絶滅の淵から引き戻しつつあります。

中川 明日香

中川 明日香

ビジネス戦略アナリスト

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。

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