よもぎ餅と草餅の違いとは?同じ説の真相や原料ハハコグサの歴史を検証
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なぜ本来は草餅と呼ばれていたものが、ヨモギ一色へと塗り替えられていったのでしょうか。その歴史的ルーツは、平安時代から江戸時代にかけての風俗と社会心理の劇的な変化に隠されています。
平安の宮廷儀式と『延喜式』に記された母子草
草餅の起源は、古代中国から伝来した上巳(じょうし)の節句(現在の桃の節句・ひな祭り)に遡ります。中国では春先に香りの強い植物を餅に練り込み、邪気を祓う風習がありました。これが日本に伝わった際、平安時代の法典『延喜式』(927年編纂)などに記録されている原料は、ヨモギではなく「ハハコグサ(母子草/現在の春の七草の御形・ゴギョウ)」でした。
ハハコグサは、初春に柔らかな黄色の花を咲かせるキク科の植物で、古くから咳止めや利尿作用を持つ生薬として重宝されていました。貴族社会において、母子草を練り込んだ緑の餅を食べることは、春の息吹を取り込み、無病息災を祈願する神聖な宮廷儀礼だったのです。
「母と子を臼で搗く」ことを嫌った江戸武家社会の禁忌
ところが、時代が平安から武家中心の江戸時代へと移り変わる中で、決定的な転換期が訪れます。ハハコグサという名称の漢字表記は「母子草」です。男子の世継ぎと家の存続を何よりも重んじる武士階級にとって、「母と子を臼(うす)に入れて杵(きね)で激しく搗き潰す」という行為の語感が、凄惨な連想を呼び、極めて不吉であると忌み嫌われるようになりました。
この「母子を搗く」という言霊のタブーを避けるために白羽の矢が立ったのが、当時から各地の野山や土手に自生し、極めて強い生命力を誇っていたヨモギ(蓬)でした。ヨモギは漢方で「艾葉(がいよう)」と呼ばれ、止血や身体を温める万能薬として庶民にも広く知られていました。その独特の強い芳香が「邪気を祓う力がハハコグサよりも強い」と解釈されたことも後押しし、江戸の町触れや年中行事を通じて、草餅の主原料は瞬く間にヨモギへとシフトしていったのです。
蓬餅(よもぎもち)の読み方と名前の由来
和菓子店の品書きで見かける「蓬餅」は、一般に「よもぎもち」と読みます。古くは「ほうへい」と音読みされることもありましたが、現在では訓読みが主流です。「蓬」という漢字は中国由来で、風に揺れる草の様子を表す文字ですが、日本では生命力あふれるヨモギの木野草を指す言葉として定着しました。名前に「蓬」の文字を冠することで、単なる草ではなく、伝統的な薬草としての格式や風情を醸し出しています。