岩松院の天井絵に潜む北斎の執念|拝観の要点と歴史の深層を解剖
今注目を集めている 岩松院の天井絵に潜む北斎の執念|拝観の要点と歴史の深層を解剖について、多角的な視点を整理して公開しています。
本堂大間(21畳敷)の天井を見上げると、巨大な鳳凰が翼を広げ、鋭い眼光でこちらを射すくめています。葛飾北斎 八方睨み鳳凰図と呼ばれるこの天井絵は、弘化4年(1847年)から嘉永元年(1848年)にかけて、北斎が88歳から89歳という超高齢期に約1年の歳月を費やして描き上げた肉筆画です。幅約6.3メートル、奥行き約5.5メートルという圧倒的なスケールを誇ります。
この大作において特筆すべきは、「八方睨み」と呼ばれる緻密な構図技法です。部屋のどの位置へ移動し、どの角度から見上げても、鳳凰の視線が寸分違わず自分を捉え続けているかのように錯覚します。北斎は小布施の豪商・高井鴻山の庇護を受け、人生の総決算としてこの画に魂を注ぎ込みました。当時の記録や関係者の研究によると、北斎は「天保の改革」による出版規制や江戸の混乱から距離を置き、純粋な芸術的自由を求めて信州の小布施へと足を運んだと伝えられています。
天井絵を構成する色彩にも、驚くべき事実が隠されています。使われているのは、中国から取り寄せられた高価な鉱物顔料(辰砂、孔雀石、群青など)です。絵の具の純度が高いため、170年以上を経た現在も一度の塗り替え・補修も行われておらず、完成当時の鮮やかな極彩色がそのまま保たれています。また、一部の美術研究者の間では、翼のうねりや陰影の配置の中に富士山を想起させる構図が潜んでいるという指摘もあり、北斎が生涯追い続けた富士への信仰が鳳凰の姿に重ね合わされているとの見方も根強く存在します。