中原中也『サーカス』の真相|ゆあーんゆよーんと茶色い戦争の謎を解く
中原中也『サーカス』の真相|ゆあーんゆよーんと茶色い戦争の謎を解くに関する最新のニュースを速報でお届けします。関心のある方は必見です。
この作品の心臓部ともいえるのが、三度にわたって繰り返される「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」という異形の擬音・擬態語です。文学史において、これほど読者の生理的感覚を揺さぶるオノマトペは他に類を見ません。
言語学的な観点から分析すると、母音「u(ウ)」と「a(ア)」、「yo(ヨ)」の反復、そして語尾の撥音「n(ン)」の余韻が、振り子のように往復する空中ブランコの運動を完璧に模倣しています。力強く振れる「ゆあーん」、惰性で戻る「ゆよーん」、そして最高到達点で一瞬の無重力を描く「ゆやゆよん」。重力と浮遊のせめぎ合いが、唇と喉の調音点を通じて直接身体に伝わってきます。
しかし、この言葉の恐ろしさは単なる物理的描写にとどまりません。中原中也研究の第一人者たちも指摘するように、「ゆあーん」という響きには、幼児が母親の胎内や揺籃(ゆりかご)で抱く安心感と、一歩間違えれば転落して即死する断崖絶壁の恐怖が同居しています。フランス象徴派の詩人アルチュール・ランボーやポール・ヴェルレーヌに深く傾倒していた中也は、言葉の持つ「音楽性」によって、人間の意識が朦朧となるトランス状態を紙の上に定着させました。
曲芸師は「頭倒(さか)さに手を拍(う)つて」います。天地が逆転した視覚世界の中で、観客の歓声に応える拍手は、同時に自らの命綱を手放す自虐的な道化の身振りに他なりません。「ゆあーん ゆよーん」とは、冷酷な現実から解き放たれた陶酔の吐息であると同時に、世界から断絶された個人の悲痛な叫びでもあるのです。