この世界の片隅には実話なのか?すずさんの実在モデルと時代考証の真相

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本作をめぐっては、インターネット上やSNSでいくつかの誤解や見落とされがちな盲点が存在します。その最たるものが、「映画版(2016年公開)だけを観た観客」と「原作漫画や長尺版『いくつもの片隅に』(2019年公開)を観た読者」との間に生じる認識のギャップです。

2016年に公開された最初の劇場アニメ版では、尺の都合上、すずさんと白木リンの複雑な関係や、周作とリンの過去の因縁に関する描写が大幅にカットされました。そのため、最初の映画版だけを観た人の中には「ほんわかしたすずさんが戦争の悲惨さに巻き込まれる純粋な物語」と捉えた人が少なくありませんでした。

しかし、原作漫画および長尺版『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』では、すずさんが周作とリンの過去の関係に気づき、嫉妬や自己嫌悪、夫婦間の生々しい葛藤に身悶えする内面が詳細に描かれています。単に戦争に耐える健気な女性ではなく、激しい嫉妬やエゴイズム、居場所を失うことへの怯えを抱えた「一人の生身の人間」としてのすずさんがそこにいます。

ネット上の一部で見られる「戦争美化ではないか」「お花畑的なファンタジーではないか」という批判は、こうした原作本来の多層的な人間描写を見落とした浅薄な誤認です。こうの史代氏が描いたのは、清廉潔白な聖女ではなく、狡さや弱さも抱えながら、それでも笑って日々のご飯を作り続けた泥臭い人間たちの真の生活史なのです。

中村 さくら

中村 さくら

マネー&キャリアエディター

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。

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