エッシャーのだまし絵の正体とは?永遠に続く階段と滝の数学的トリック
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エッシャーの代名詞ともいえる二大傑作が、1961年のリトグラフ『滝』と、1960年の『上昇と下降』です。両作品とも「あり得ない循環」をモチーフにしていますが、鑑賞者の脳を欺く幾何学的アプローチは明確に異なります。
まず、エッシャーの滝の仕組みの根底にあるのは、理論物理学者ロジャー・ペンローズらが考案した「ペンローズの三角形」です。柱と水路をよく観察すると、手前にあるはずの柱が奥の梁(はり)を支え、奥にあるはずの段差が手前の水路と直角に接続されています。人間の視覚システムは、図形の局所的な接続部分(交差点や角)を「三次元的に正しい直角」として解釈する癖を持っています。エッシャーはこの脳の自動補正機能を利用し、局所的には辻褄が合っているのに、全体を俯瞰すると空間の高さがループしているという「不可能図形・不可能立体」の完全な偽装を成立させました。
一方、四角い城塞の屋上を無表情な修道士たちが歩き続けるエッシャーの『上昇と下降』では、「ペンローズの階段の仕組み」が精確に組み込まれています。4辺の階段はそれぞれ数段ずつ昇り(あるいは降り)続けているように見えますが、4辺を一周すると元の高さに戻ってしまいます。ここでの視覚的欺瞞は、等角投影法(アイソメトリック)に近い歪みのない平行描写にあります。遠近法(パースペクティブ)をあえて破棄し、遠くの階段も手前の階段も同じ縮尺比で描くことで、視覚の基準となる「地平線」を消失させ、永遠の上昇と下降を可能にしているのです。
さらに、1953年の名作エッシャーの『相対性』では、単一の建物の中に3つの独立した重力場が存在しています。壁が床になり、天井が階段の踊り場となるこの空間では、同じ階段を使いながら、ある人物にとっては上り階段であり、別の人物にとっては下り階段として機能します。エッシャーは重力の方向を90度ずつ回転させ、同一キャンバス内に破綻なく共存させることで、私たちが日常疑うことのない「上と下」という概念そのものを解体して見せました。