『残像に口紅を』消える文字の順番と衝撃結末!筒井康隆の奇書を徹底考察
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物語の主人公は、文壇で名を馳せる高名な小説家・佐治勝夫(さじ かつお)です。佐治はある日突然、「文字がひとつずつ消えていく」という絶対的なルールに支配された虚構の世界を生きることを余儀なくされます。本作における「言葉が消える」という現象は、単なる文章上の表記ルールの変更にとどまりません。その文字を含む言葉が発音できなくなるだけでなく、対応する事象・物質・概念そのものが世界から物理的に消滅し、人々の記憶からも抜け落ちていくという恐るべき法則が働いています。
第1章で「あ」の音が消滅した瞬間から、佐治の日常は急激に変貌します。「愛(あい)」や「あなた」、「朝(あさ)」や「雨(あめ)」といった日常に不可欠な言葉が失われ、佐治の周りからそれらの存在が跡形もなく消え去ります。佐治は小説家として、失われゆく言葉の穴を別の表現で埋め合わせながら執筆を続け、飲食を楽しみ、友人と語らい、女性たちと交情を重ねます。しかし、章が進むごとに使える五十音は容赦なく1文字ずつ奪われていきます。
次第に食卓から「パン」や「スープ」が消え、タバコが消え、衣服が消え、親しい友人や家族の存在までもが言葉の消滅とともに掻き消えていきます。世界の輪郭が急速に痩せ細っていく恐怖のなかで、佐治は自らの意識と肉体を維持できるのか。言葉によって構築されていた現実がガラガラと音を立てて崩れ去る、知的なサスペンスが展開されます。