森鴎外『舞姫』の結末と真相|豊太郎はなぜクズと呼ばれエリスは狂ったのか

森鴎外『舞姫』の結末と真相|豊太郎はなぜクズと呼ばれエリスは狂ったのかの見逃せないポイントを徹底的にカバーしました。

森鴎外の『舞姫』は、格調高い擬古文(雅文漢文訓読体)で綴られているため、高校の授業や受験勉強で「文章の格調高さに圧倒されて話の筋が追えなかった」という挫折談が後を絶ちません。しかし、物語の骨子を平易な言葉で整理すると、そこにあるのは息をのむほど生々しい人間ドラマです。

主人公は、東京大学を優秀な成績で卒業し、官庁の期待を一身に背負ってベルリンへと国費留学を果たした若きエリート、太田豊太郎(おおた とよたろう)。自他共に認める「受動的な優等生」だった豊太郎は、自由な欧州の空気に触れる中で、これまで国家の歯車として生きてきた自分に疑問を抱き始めます。そんなある夕暮れ、クロステル街の古い教会の前で、仕立物屋の父を亡くして葬儀代に困り、ひとり激しく泣き崩れていた16〜17歳の貧しい踊り子、エリスと運命的な出会いを果たします。

豊太郎は彼女に父の葬儀費用を工面してやり、やがて二人は身分や国籍の壁を越えて惹かれ合っていきます。しかし、エリート留学生が異国の卑しい身分の踊り子と親密にしているという噂は、瞬く間に在独の日本人留学生仲間に知れ渡り、公使館を通じて母国の官公庁へと密告されてしまいます。結果として豊太郎は免官(免職)処分を受け、さらに追い討ちをかけるように、日本にいた最愛の母が息子の不始末を嘆いて自害したという凶報が届くのです。

官職も給与も母も失い、異郷に放り出された豊太郎を救ったのは、身を粉にして働き彼を支えたエリスの献身でした。豊太郎は現地新聞の通信員として細々とした原稿料を稼ぎ、エリスと質素なアパートで同棲生活を始めます。やがてエリスの身体には新しい命が宿り、二人はささやかながらも真の愛に基づいた生活を築きつつありました。

だが、その平穏は唐突に破られます。豊太郎の才能を惜しむ無二の親友、相沢謙吉(あいざわ けんきち)が、政府の大物である天方伯爵(あまがた はくしゃく)のベルリン歴訪に随行してやって来たのです。相沢は豊太郎に復権の好機を与えるため、伯爵のドイツ語通訳・秘書役としての仕事を取り付けます。ロシア出張への随行で見事に才幹を発揮した豊太郎に対し、天方伯爵は「自分と共に日本へ帰国し、再び国家のために働かないか」と破格の復帰ポストを提示しました。

愛するエリスとお腹の子供を守りたいという情愛と、名誉を回復してエリート街道へ返り咲きたいという野心。二つの激しい葛藤に引き裂かれた豊太郎は、相沢の強い説得に抗えず、エリスに無断で「帰国の誘いを受け入れる」と約束してしまいます。雪の降るベルリンの街中を当てもなく彷徨い、精神的苦悩の極致で昏倒した豊太郎は、人事不省となって自室へ運び込まれました。

数日間の昏睡から目を覚ました豊太郎の前に広がっていたのは、取り返しのつかない悲劇の光景でした。豊太郎が倒れている間に、相沢から事の真相(豊太郎が伯爵と共に帰国を決意したこと)を告げられたエリスは、あまりの精神的ショックから急性パラノイア(偏執病・精神崩壊)を発症。豊太郎の衣服を握りしめ、赤ん坊のためのオムツを縫いながら、わけのわからない譫言を叫ぶだけの廃人となってしまっていたのです。

エリスの母に一生困らないだけの手切れ金を渡し、発狂したエリスをベルリンの精神病院に残したまま、豊太郎は天方伯爵の船に乗って日本へと帰国します。そして物語は、今なお読者の語り草となっている戦慄の一文で幕を閉じます。

「ああ、相沢謙吉がごとき良友は、世にまた得がたかるべし。されど、我が脳裡に微(かす)かなる一点の彼を憎む心、今日に至るまで尚ほ残れり」

【登場人物相関図】愛と出世、裏切りが交錯する人間模様

物語の構造を理解する上で不可欠な、主要人物4名の力関係と感情のベクトルを整理します。

  • 太田豊太郎:主人公。秀才だが主体性に欠ける内向的エリート。エリスを愛しながらも、出世と世間体を捨てきれず破滅を招く。
  • エリス:ヒロイン。ヴィクトリア座の薄給な踊り子。豊太郎を一途に愛し献身するが、裏切りの絶望から発狂する。
  • 相沢謙吉:豊太郎の旧友。国家主義的リアリスト。親友の才能を惜しみ、キャリア復活を画策するが、冷酷にエリスを切り捨てる。
  • 天方伯爵:明治政府の実力者(山縣有朋がモデル)。豊太郎の実務能力を高く買い、自らの派閥へ引き込むために帰国を迫る。
斉藤 蓮

斉藤 蓮

デジタルマーケティングコンサルタント

シンプルで洗練された住まいづくりとインテリアコーディネートのアイデアを提案しています。

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