発達障害の遺伝は母親のせい?最新研究が明かす確率の真相と誤解
発達障害の遺伝は母親のせい?最新研究が明かす確率の真相と誤解の疑問点について、専門知識を取りまとめてご紹介します。
遺伝の議論で最も誤解されやすい概念が、統計学で用いられる「遺伝率(Heritability)」です。メディアで「発達障害の遺伝率は約80%」と報じられると、一般の読者は「発達障害の親から生まれた子は80%の確率で同じ特性を持つ」「8割が親からの遺伝で決まる」と受け取ってしまいがちです。しかし、これは致命的な誤解を招く解釈です。
遺伝率とは、「ある集団内における特性の個人差(ばらつき)のうち、遺伝的な違いによって説明できる割合」を指す集団統計値です。個人の発症確率を予測するパーセンテージではありません。例えば、北欧の大規模双生児レジストリや国際コンソーシアムの統合解析によると、双生児研究における自閉スペクトラム症の遺伝率はおよそ70〜80%、ADHDでは約74〜80%と算出されています。この数字は「特性の現れやすさにおいて遺伝的背景が無視できない基盤を持っている」ことを示唆する指標であって、親の特性が子どもへ機械的にコピーされる確率ではないのです。
実生活において保護者が直面する現実的な指標は、兄弟姉妹における「家族内再発率」です。第一子が自閉スペクトラム症と診断された場合、次に生まれる同胞(兄弟・姉妹)が同じ診断を受ける確率は、一般人口の出現率(約1〜2%)と比較して約10〜20%に上昇すると報告されています。リスクの上昇は認められるものの、80〜90%の確率で同じ診断には至らないという事実が、単一遺伝病とは異なる複雑な発現機構を明確に物語っています。