絶世の美女も朽ちゆく運命。九相図が語る肉体変貌と教えの全貌
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九相図をめぐる文化史において最も人々の好奇心を惹きつけてやまないのが、描かれた被写体が誰であったかというモデル説だ。なかでも語り継がれてきた代表格が、平安歌壇の第一人者であり絶世の美女と称された小野小町、そして嵯峨天皇の皇后として篤い信仰心を誇った橘嘉智子(壇林皇后)である。
伝説によれば、橘嘉智子(壇林皇后)は自らの死に際し、「遺体を埋葬せず野に捨てて風化させよ。己の身をもって世の無常を人々に悟らせよ」と言い残したと伝えられる。圧倒的な美貌と権力を誇った女性たちが、息をひきとり、皮ふが爛れ、骨へと変わり果てる姿。その落差があまりにも激しいからこそ、見物者は自らの肉体に対する愚かな執着を根底から打ち砕かれるのだ。
近世の小野小町説においても同様に、彼女の詩情豊かな美と爛れゆく死体のコントラストが強く意識されてきた。高貴なる美の象徴が爛熟し無に帰す過程を眼前に差し出す手法は、歴史を通じて人々の欲望と虚飾を削ぎ落とす強力な精神的装置として機能してきたのである。