茎突舌骨筋の起始停止と作用を解剖!嚥下を支える神経と国試の盲点
茎突舌骨筋の起始停止と作用を解剖!嚥下を支える神経と国試の盲点の注目されている理由をコンパクトにまとめました。全体像を一目で把握できます。
解剖実習の現場で医学生や解剖学者が一様に感嘆するのが、顎二腹筋と茎突舌骨筋が交差する停止部の構造です。両者は単に隣り合って並んでいるのではなく、驚くべき立体的な仕掛けを持っています。
茎突舌骨筋は舌骨体に近づくと、その停止腱が二股にスリット状に裂けます。そして、その裂け目の間を、後方から前方へと走ってきた顎二腹筋の中間腱が通り抜けて(貫通して)舌骨へと向かうのです。人体において、ある筋肉の腱が別の筋肉の腱を貫通する構造は極めて稀であり、手の浅指屈筋腱を深指屈筋腱が貫く構造(キアスマ)と並ぶ解剖学の傑作と言われています。
なぜこのような複雑怪奇な構造をしているのでしょうか。バイオメカニクス的な観点から見ると、茎突舌骨筋のスリットは顎二腹筋中間腱を舌骨に繋ぎ止める「動的な滑車(プーリー)」の役割を果たしています。二腹筋前腹と後腹が収縮して角度を変える際、中間腱が舌骨から浮き上がらないようガイドしつつ、自らも収縮して舌骨を後上方へ引き込みます。2つの筋肉が互いの軌道を干渉させず、限られた頭頸部の狭小スペースで最大の力学的効率を発揮するための進化の賜物なのです。
また、起始部である側頭骨茎状突起には、茎突舌骨筋のほかに「茎突舌筋(舌下神経支配)」と「茎突咽頭筋(舌咽神経支配)」が付着しています。これら3つの筋肉は、17世紀のフランスの解剖学者ジャン・リオランにちなんで「リオランの筋花(茎突三筋 / Bouquet of Riolan)」と総称されます。3つの筋肉が同じ茎状突起から放射状に広がりながら、それぞれ「顔面神経」「舌下神経」「舌咽神経」という全く異なる3つの脳神経に支配されている事実は、頭頸部解剖の美しさと試験での頻出度を際立たせています。